人間と魔族
相容れぬ存在同士が、啀み合う時代から
手を取り合う時代へ…

変えようとする者
変わろうとしない者
変えさせまいと拒む者
様々な感情の入り交じる世界に存在する一つの組織
―総ての命が幸せに…―
それが彼らの…政府特務部隊『WIZORD』(ウィゾード)直下、通称「仕事屋」の目的…

  ― Certified Worker―


都心から離れた街並の中、小さなビルの1階にその店はあった。
硝子張りの扉には白字で「須堂万店」と書かれている。
政府内に設置された、魔族、能力者対応用部隊「WIZORD」の隊員達が、脱隊後にその特殊能力を生かし個人で民間人の為に営んでいる「仕事屋」
内容はWIZORD同様、魔族・能力者関連の事故、事件の処理といったものである。

店の中、左手側に扉を構える形で木造の机に頬杖を付いた青年が、間の抜けた表情で一つ欠伸をする。
金髪に、左耳のみのピアス、縁なしの眼鏡という特徴的な要素に加え、立てば190cmにもなる長身の持ち主。22歳にしてこの店の責任者をしている須堂 倭【すどう しず】は、そのなんとも情けない表情を崩さないまま口を開いた。
「いやぁ〜〜〜〜…平和だねぇ〜」
間延びした口調。花でも飛び散らかしそうな和やかな雰囲気。とても主として店を担っている成人とは思えない…。

そんな彼の幸せな時間は、次の瞬間一瞬にしてどん底迄叩き、もとい蹴り落とされた。
ガスッ
鈍い音の後に続くのは倭の悲鳴。
上空からの踵落としと、尚且つその反動により机で顔面を打った倭は、ダブル攻撃の後も自分の頭から足を退ける気配のない人物の殺気を確かに感じていた…
「平和じゃねぇ…」
「痛いっス…妃さん…」
禍々しい気を放った踵落としの主に、反抗出来ない彼は弱々しく呟く。
その倭の言葉に、漸く足を退けた少年は心底深く溜息を吐いた。
外海 妃【そとうみきさき】。倭より三才年下の19歳の彼は、紺色のサラサラとした髪と、切れ長の釣り目が印象的な少年で、WIZORD時代からのパートナーである。

「お前ちゃんっっとやる気あんのかよ!!?」
倭の座る机を左手で叩き、妃は声をあげる。
「何なんだよここ最近の仕事内容は!風呂の修理だの引っ越しの手伝いだの果ては猫の捜索だのっろくでもないもんばっか引き請けて!!」
本来の目的から掛け離れた仕事の数々に、その目を普段より釣りあげて怒鳴る彼は、はたから見ればなかなかに迫力のあるものである。
が、もはや三年以上彼と共に仕事をしている倭は慣れたもの。そののんびりした口調を崩さないまま
「え〜だって… 楽しいぢゃん☆」
ぷちっ
ギリギリの所で保たれていた妃の何かが切れた…。
「あんまりフザケてると…そろそろ家追い出すぞ?」
どうやら倭は居候らしい…
額に怒マークをちりばめたまま、妃は自分の左側にある壁を指差す。そこにあるのは、額に入れられた仕事屋の紋の捺された認定証。
「俺達は魔族、能力者対応用に政府が認定してる仕事屋なんだぞ!?それなのに最近じゃ魔族の魔の字さえねーじゃねーかよっ!!」
「平和に成った証拠ぢゃん。俺達だって元々は人と魔が仲良く成る世界を創る為にいるわけなんだしさ」
「だからってアレは俺達のやらなきゃならない仕事か!?」
「妃の特殊能力を遺憾無く発揮してると思うけどなぁ…風呂とか機械のメンテとか」
「っ俺は電器屋になった覚えはねーぞっっ!こんな雑用ばっかじゃ何でも屋ぢゃねーか!」
かたや怒り頂点の妃、かたやあく迄トボケタ倭
明らかに異様…
「でも、ほら。ココって“万屋”だし〜」
=何でも屋。どうやら雑用もしますよというニュアンスも込めて開店時に万屋と命名したらしい…。当然この言葉は火に油
切れてる妃は更に切れた。
「ふざけんなよこのボケ!?なんでWIZORD脱隊してまでご町内の皆様の細やかな幸せの為にこんな店構えなきゃなんないんだよ!?大体お前は昔っから…」
と延々続く妃の怒りにさすがの倭もあたふたとしだす。
昔なら同僚や上司の制止が入った場面でも、現在この場には二人きり。他に社員など居ないのだから当たり前だが…もはや止める事は不可能と思われた妃の怒りに、しかし制止が入った。
それは、入口の扉が開く音と、それに続く遠慮がちな声で…